ゆるゆるとける

宇宙人がいたらいいなあ、と思っている。
ひさしぶりに会う友だちにそう話すと
「ちゃんちゃんは変わらないな」と
笑われてしまった。
僕たちはたまにこうして
ああでもこうでもない話をして過ごす。
ひと通りしゃべり終えたあと
友人がポケットからたばこを取り出し
おまちかねと言った顔で、ニカっと笑うので
僕も笑って、それをひとつ受け取った。
手にもっていた薄っぺらいアルコールを
ぐっと身体におさめてから、
火をつけてもらい深々と吸う。
吐き出した煙が夜の空気にゆるゆるととけて
綺麗だと思った。

たばこは、基本的には吸わない。
面白くないから。
ただ、誰かと一緒に吸うのは好きだ。
僕が一本受け取ると
友人はきまって火を付けてくれるので、
身体をすこし縮こめ、ライターのほうへ
ぐっと顔を近づけて、こそこそぴったり、
なんだか秘密基地にいるみたいで嬉しくなる。

父はタバコをたくさん吸う人だった。
ぼくは父も煙草も好きではなかったので、
だから自分は絶対にたばこを吸わないものだと
思っていた。いまだにこそこそしてしまうの
そのせいかもしれない。
父が見ていたらなんて言うだろう。と、考える。
「大きくなったなあ、お前も」
そういって笑うかもしれない。
豪快で気持ちのいい笑い方をする人だった。
みなみの島みたいな笑顔だった。
一本ぐらい、いっしょに吸ってやれば良かった。

以前どこかで読んだことがある。
ぼくたちの住む銀河系は
10万光年広がっていて、
星の数は4000億個あるらしい。
そんな一生かかっても
数えきれない星々の中に、
ぽつんと、自分たちしかいないのは淋しいし、
やっぱちょっと、こわい。
だから宇宙人でもなんでも、
いてくれたら嬉しい。

「宇宙人も、タバコ吸うのかな」
友達にそう聞くと、
「吸わないだろ」と笑うので
吸わないかあ、と思いながら
夜にとけて消える煙と 友達の顔を
いったりきたりながめながら
やさしい夜だなあと思った。

もしいつか どこかで 宇宙人にあえたなら
いっしょに たばこを吸ってみたいと思っている
ほら、こうやるんだよ なんていいながら
火をつけてあげて、秘密基地の中でするみたいに
いろんな話がしたい。
話のつかみは万国共通、いや、
万宇宙共通の恋バナがいいかもしれない。
そうだ、そうしよう。ラブは星をも越えるのだ。
「愛とか恋とか宇宙人もする?
年金とかって、そっちにもある?
あ、すきな食べ物なに?」

おれ、きみに会ってみたいって、
友達に笑われたんだよ
そんなこと、話しながら。

7コメント

  • 1000 / 1000

  • kちひろ

    2020.05.28 02:36

    いちかくんってたばこ吸うんですね、、 けむり越しに見えるいちかくんの顔ってきっとまだ見たことない表情のような気がするー。 一瞬どこか違う世界にいるみたいな横顔、見てみたいな笑 短編小説を読んだみたいな気持ちになるブログでした☺️
  • eeen26

    2020.05.27 19:04

    宇宙人の話はどこか、星の王子さまみたいで、嬉しかったです。
  • いるか

    2020.05.27 15:00

    もしかしたら、知らないうちに宇宙人と人間は共存してるのかも…! 普通に人間と同じく、タバコ吸ったり、退職年金を貰ったり、恋愛もしてたりして。